2011年3月11日東北地方太平洋沖地震の津波波源モデル
(Ver. 6.2, Ver. 7.0 and Ver. 8.0)
以前のバージョンはこちら.
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(38.322°N, 142.369°E, Mw = 9.0,14:46:23(日本時間) USGSより)のマルチタイムウィンドウ津波波形インバージョンを実施し,断層面上の時空間的なすべり分布を推定しました. 断層モデルとして,44枚または55枚の小断層を設定しました(図1).震央から各小断層までの破壊伝播速度は2.0 km/sと仮定しました.
Ver. 6.2: 44小断層モデル.すべての小断層の震源メカニズムをUSGSのWphaseインバージョン解析によるモーメントテンソル解から,走向193°,傾斜14°,すべり方向81°とした場合.各小断層の長さと幅は 50 km × 50 km.小断層面上端の深さは海溝軸から陸域方向の順に,0,12.1,24.2,36.3 kmである.
インバージョンの結果(Ver.8.0)を見ると,震源から始まった断層破壊はプレート境界の深い領域と浅い領域に伝播し,宮城沖のプレート境界深部では,破壊開始から2.5分以内に最大25 mのすべりが発生しました.海溝軸付近では,破壊開始から3 - 4分かかって最大69 mのすべりが生じました.また,三陸沖の海溝軸付近では,破壊開始から1.5 - 3分後にすべり始め,3 - 4分経ってから10 m以上のすべりに達しました.モーメントマグニチュード(Mw)は9.0と推定されました.
Ver. 7.0 (Satake et al., 2013): 44小断層モデル.傾斜角を,断層面を太平洋プレート上面の形状(Nakajima and Hasegawa, 2006)に合わせ,海溝軸から陸側の順に,8°,10°,12°,16°とした場合.各小断層の長さと幅は 50 km × 50 km.断層の走向とすべり方向は,米国地質調査所(USGS)のW phaseインバージョン解析によるモーメントテンソル解から,それぞれ193°と81°とした.小断層面上端の深さは海溝軸から陸域方向の順に,0,7.0,15.6,26.0 kmである.
Ver. 8.0 (Satake et al., 2013): 55小断層モデル. Ver. 7.0の海溝軸沿いの小断層を2つに分割(すなわち 50 km × 25 km)した場合.小断層面上端の深さは海溝軸から陸域方向の順に,0,3.5,7.0,15.6,26.0 kmである.他の断層パラメータはVer. 7.0と同じ.
グリーン関数を計算する際の津波の初期条件として,設定した小断層による海底地形の静的変位をOkada(1985)の式で計算しました. 使用した海底地形データは,外洋では GEBCO_08を2分で再サンプリングしたデータ,日本周辺は JTOPO30の30秒グリッドデータです. 津波伝播を計算するため,線形長波の式を差分法で数値的に解きました(Satake, 1995).
インバージョンに使用した津波波形データは, DARTと呼ばれる米国大洋大気圏局(NOAA)が深海底に設置している津波計, 日本沿岸の海底津波計(海洋研究開発機構(JAMSTEC) と東京大学地震研究所(ERI)), 国土交通省港湾局によるGPS波浪計,海象計,検潮所(NOWPHAS), 気象庁と海上保安庁の検潮所 及び原子力発電サイトの検潮所と波浪計 で観測された水位記録です.
各観測点で観測された津波波形と計算波形の比較を図3に示します. 図4にインバージョンにより推定された断層モデル海底地殻変動を示します. 図5では,津波が東北地方の沿岸に押し寄せる様子が分かります.断層パラメータはこちら (Ver. 6.2) and (Ver. 7.0) and (Ver. 8.0)
断層面上の時間的すべりのスナップショットはこちら (Ver. 6.2) and (Ver. 7.0) and (Ver. 8.0)
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図1 津波波源モデル(左:Ver. 6.2, 中:Ver. 7.0, 右:Ver. 8.0)
上: 推定された断層面上のすべり分布.青星は震源,赤丸は本震後約1日間に発生したM5以上の余震を示す(いずれも気象庁より).
下: 各小断層におけるすべりの時間変化.破壊フロントが各小断層に到達(赤の逆三角形:破壊伝播速度2.0 km/sを仮定)した後のすべりが30秒毎に求まっている.
図2 インバージョンに使用した観測点の位置
四角は海底津波計,菱形はGPS波浪計,三角は検潮所と波浪計を示す.
図3 検潮所と沖合の津波計,及びDARTにおける津波波形の比較(左:Ver. 6.2, 中:Ver. 7.0, 右:Ver. 8.0)
赤線が観測津波波形,青線が理論波形.時間軸上の灰色線はインバージョンに使用した区間を示す.
図4 インバージョンで得られた断層モデルによる海底地形変動(左:Ver. 6.2, 中:Ver. 7.0, 右:Ver. 8.0)
等高線の間隔は赤び実線(隆起)が1.0 m,青の点線(沈降)が0.5 m.
GPS/A観測 (Sato et al., 2011) により測定された変位ベクトル(赤矢印)と津波波形インバージョンによるモデルから計算した変位ベクトル(青矢印)の比較も示す.
図5 津波が伝播する様子(Ver. 8.0)(クリックするとアニメーションが始まります).
赤は押し波,青は引き波を表す.
藤井雄士郎(建築研究所 国際地震工学センター),佐竹健治(東京大学 地震研究所)
参考文献 Nakajima, J. and Hasegawa, A. (2006). Anomalous low-velocity zone and linear alignment of seismicity along it in the subducted Pacific slab beneath Kanto, Japan: Reactivation of subducted fracture zone? Geophys. Res. Lett., 33, L16309, doi:10.1029/2006GL026773
Okada, Y. (1985), Surface Deformation Due to Shear and Tensile Faults in a Half-Space, Bull. Seismol. Soc. Am., 75, 1135-1154.
Satake, K. (1995), Linear and Nonlinear Computations of the 1992 Nicaragua Earthquake Tsunami, Pure and Appl. Geophys., 144, 455-470.
Satake, K., Fujii, Y., Harada, T. and Namegaya Y. (2013),Time and Space Distribution of Coseismic Slip of the 2011 Tohoku Earthquake as Inferred from Tsunami Waveform Data, Bull. Seismol. Soc. Am., in print.
Sato, M., Ishikawa, T., Ujihara, N., Yoshida, S., Fujita, M., Mochizuki, M. and Asada, A. (2011). Displacement above the hypocenter of the 2011 Tohoku-Oki earthquake. Science, 332(6036), 1395-1395.
最終更新日 2013/3/1