2010年10月25日にスマトラ島沖で発生した地震の遠地P波の高周波震動継続時間とマグニチュード
遠地で観測されるP波の高周波成分は、地震の震源時間(断層面上の滑りが始まってから終わるまでの時間)とよい相関を示し(Hara,
2007a)、震源時間の目安になる。高周波震動継続時間と最大変位振幅から地震のマグニチュードを計算する方法を考案した(Hara, 2007a)。この方法は、M9級の巨大地震に適用可能、マグニチュードを決めるのが困難な津波地震に適用可能(Hara, 2007b)といった利点を有する。
この方法を2010年10月25日にスマトラ島沖で発生した地震(発生日時10月25日14時42分22秒UTC、震源位置:
南緯3.484°、東経100.114°、深さ20.6 km、共に米国地質調査所による)に適用した結果を以下に記す。解析には全地球的に設置された観測点の複数のデータを使用した。図1は高周波震動継続時間の測定例である。観測点はケニアに設置された広帯域地震観測点である(震源からの距離は約7000km)。測定された高周波震動継続時間の中央値は109.7秒であった。震源時間は100秒程度であったと推定される。高周波震動継続時間と最大変位振幅から求めたマグニチュードは7.61であった。米国地質調査所が求めた7.7、グローバルCMTプロジェクトが求めた7.8と整合的である。
Hara (2007a)の方法では、マグニチュードは変位振幅(+距離補正)と高周波震動継続時間で決定される。図2に今回の地震の結果を◆で示した。観測される地震動の強さに比べて、より大きな津波が励起される地震は「津波地震」と呼ばれ、例としては1992年のニカラグア地震、2006年にジャワ島沖で発生した地震が挙げられる。図2の■はHara (2007b)の過去の津波地震の結果である。●で表示された他の地震(1995年以降に発生したマグニチュード7.2以上の地震)と比べて、相対的に振幅が小さく、高周波震動継続時間の長い地震であることが分かる。今回の地震は過去の津波地震と同じような位置に表示されることから、津波地震であると考えられる。
図1:高周波震動継続時間の測定例。観測点はケニアに設置された地震観測点である。上の波形は観測された速度記録。2番目は2-4 Hzのハイバンドパスフィルターを掛けた結果。下の図は2番目の波形の移動平均をとった時系列で、「A」が地震の到着時刻、「F」が高周波震動の終わりを表している。
図2:Hara (2007a)のマグニチュード決定方法の最大変位振幅(+距離補正)と高周波震動継続時間をそれぞれ横軸、縦軸にして、今回の地震を◆で示した。Hara (2007b)が示した過去の津波地震及び1995年以降に発生したマグニチュード7.2以上の地震(津波地震を除く)の結果をそれぞれ■、●で示した。
参考文献
Hara,
T., Measurement of duration of high-frequency energy radiation and its
application to determination of magnitudes of large shallow earthquakes, Earth Planets Space, 59, 227–231, 2007a.
Hara,
T., Magnitude determination using duration of high frequency energy radiation
and displacement amplitude: application to tsunami earthquakes, Earth Planets Space, 59, 561–565, 2007b.
(国際地震工学センター 原 辰彦)
Last
Updated: 2010/11/08