「揺れやすい地盤」の推定を簡単に
地震が起きた時の揺れの大きさを左右する1つの要因として、地盤の違いがあります。事前に地盤の揺れやすさを調べておくことで、地震が起きた際に揺れが大きくなる(被害が起こりやすい)地域を把握することができます。地震の揺れやすさを簡易的に表す指標として、Vs30(地表から地下30mの間のS波速度の平均値)という値が国際的に用いられています。Vs30が小さい(=地盤が柔らかい)場所では揺れが大きくなり、反対にVs30が大きい(=地盤が硬い)場所では揺れが強くなりにくいことが経験的に分かっています。
特定の場所のVs30をコストをかけずに調べる方法として、「常時微動探査」があります。調べたい地盤の上に地震計を複数台配置して、常時微動と呼ばれる微弱な振動(車の通行など周辺の人間活動によって生じるノイズ)を測定することで、地盤の揺れ方に関する情報を調べる方法です。常時微動探査は世界中で広く用いられていますが、解析を行う際には解析者のスキルや知識が必要になるため、解析者や解析ソフトによってVs30の判定に違いが出ることが指摘されています。
本研究では、Vs30を人やソフトの影響を受けることなく、最低限のデータ処理で推定する方法を開発しました。この方法で推定したVs30は従来の方法と比べても遜色のない精度であることも確認しています。この方法が普及することで、開発途上国などの熟練者が不足している地域でもVs30の推定を効率的に行いやすくなり、ハザードマップ作成のためのハードルが低くなることが期待されます(ブータン王国で適用し、効果を確認しています)。
Hayashida, T., T. Yokoi, N. Nepal, and M. Olivar (2023)
Direct estimation of Vs30 using spatial autocorrelation and centreless circular array coefficient curves obtained from microtremor array data, Geophysical Journal International
doi:10.1093/gji/ggad006
2016年熊本地震の被災の有無を分けたのは何か?〜余震記録から探る地盤の影響〜
熊本県益城町(上益城郡)は、2016年熊本地震の際に震度7の強い揺れに2度も見舞われ、木造住宅を中心に多くの被害が生じました。しかし、被害を受けた建物の分布は、町内の一部エリアに集中していました。
「何が被害の有無を分けたのか?」については考えられる原因が諸説あり(地盤の違い、耐震基準の違い、断層の影響)、未だ明確な結論が出ていません。
我々の調査チーム(代表:京都大学防災研究所 山田先生)は、地震発生から2か月後に益城町を訪れ、家屋の倒壊が集中したエリアと軽微だったエリアにそれぞれ地震計を設置して余震を測定しました。30個の余震の記録を解析した結果、被害が集中したエリアとそうでないエリアで、地震時の揺れ方(震度)や周波数特性に明らかな違いがあることが分かりました。この違いには、地表付近の地盤の違いが関係していると考えられます。また、余震の場合には、被害の少なかった場所の方が被害のあった場所よりも大きく揺れるという、矛盾した傾向があることが判りました。弱い揺れの時と強い揺れの時で、地盤の挙動に違いが生じていた可能性が考えられます。
我々は、余震の記録を詳細に分析することで、地盤の浅い部分だけではなく深い部分(地表〜深さ1500m)の地下の構造がどのようになっているのかも調べました。これらの余震記録と地下構造のデータは、益城町での疑問点を解き明かす上で貴重な情報になると考えています。
Hayashida, T., Yamada, M., M. Yamada, K. Hada, J. Mori,
Y. Fujino, H. Sakaue, S. Fukatsu, E. Nishihara, T. Ouchi, and A. Fujii (2018)
Subsurface velocity structure and site amplification characteristics in Mashiki Town, Kumamoto Prefecture, Japan, inferred from microtremor and aftershock recordings of the 2016 Kumamoto Earthquakes, Earth Planets and Space
doi:10.1186/s40623-018-0889-2